夜の部 後半

あまりにも月に見入っていた為、彼に気付かなかった。
カサッと枯葉でも踏んだかの様な物音がして、
気付いた時にはすぐそこまで来ていた。
外灯から少し離れていたので顔がはっきりとしない。
目の前まで来た彼が口を開き、話しかけてきた。


「なにしてるの?」


…警察官でした。
そんなに不審でしたかね?
まぁ別にいけない事してる訳じゃないし、普通に「月見てましたけど」と答えました。
すると、「こんな時間に一人で?」ですって。まだ22時そこそこじゃないですか。
「明るい内からそうそう月は見えないでしょう」なんて屁理屈も過ぎりましたけど、まあ普通に考えて声掛けてくるのもなんらおかしい事でもないので、犬を呼び寄せ散歩中だと説明。
そこで彼の顔にも笑みがこぼれ、去り際に一言。
「あぁなんだ、びっくりしたよ」


そんなもんお互い様ですけどね。


折角こんなに月が綺麗な夜くらい、ちょっと休憩でもして花鳥風月の一つや二つでも語っていけばいいのに。